式では、出席できなかった親族の手紙を
代読することがあります。
そのときに依頼されたのは、
花嫁さんが13歳の時に亡くなられたお父様の手紙。
結婚が決まったときに渡して欲しいとお
母様に託されていたのだそうです。
初顔合わせの時にその手紙をお母様からお預かりし、
結婚式当日まで目を通すことがなかった
花嫁さん。
こちらとしても責任重大です。
厳かに、娘を思う父親の気分になって読み上げました。
「久しぶりだね、手紙からだけど
話しかけることができてうれしい。
結婚式には父がいなくて申し訳ない、
一緒にバージンロードを歩きたかった。
(中略)……これから健吾君と幸せになってくれ、
父の分まで人生を楽しみなさい」
感動で涙を拭う花嫁さん、
ひときわ大きく起こる拍手。
「精一杯がんばります」
と宣言する新郎さん。
読み終わった私は何気なく、手紙を開いたまま、
花嫁さんの前に置きました。
花嫁さんは懐かしそうにお父様の筆跡を追っています。
ところが、途中で花嫁さんの視線が凍り付きました。
それから挙動不審の花嫁さん。
傍目で見てもぎこちなく式は進行し、
やがて御披楽喜に。
私は不思議に思い、控え室に
退出された花嫁さんに理由を聞きました。
花嫁さんが新郎さんとお付き合いを始められたのは
2年前。
近所の幼なじみではなく、
地元の佐賀県から遠く離れた
北海道の大学で知り合われたそうです。
ちなみに13歳の頃、同級生には健吾君はいなかったし
お付き合いされている男性もいなかったそうです。
つまり亡くなったお父様は、
新郎さんの事を知り得たはずがないのです。
けれどその手紙には、確かにお父上の直筆で
新郎さんの名前が書かれていたのでした。