たった二人の家族だけど、暖かい家庭だった。俺は癌でもうすぐ他界する

病状の詳細は省くけど、
俺は癌でもうすぐ他界する予定。
進行が早くてどうにもならない。
そんな中でも嬉しかったこと。
俺には6歳下の妹がいる。
妹が3歳の頃に両親が離婚して、
それ以来母子家庭。
父親はろくでもない人間だったから
養育費なんてものは貰えず、
以来生活保護で貧乏生活に。

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そして母親も大概で、
いつでも自分のことばかり考えていた。
「私だって一人の人間で、一人の女」が口癖の、
子供を持ってはいけない人間だった。
金もないし、親の愛もない。
俺は子供ながらに自分の置かれた環境を呪ってた。

だからこそ
「妹にはこんな気持ちになってほしくない」
って強く思った。
妹にだけは不自由させたくなくて、
昔から世話を焼いてた。
母親に代わって料理を作って、遊びに連れて行って、
とにかく妹にだけは楽しく暮らしてほしかった。
その甲斐があったのかはわからないが、
妹は真っ直ぐ素直に育ってくれて本当に良かった。

生活保護家庭では、
高校を卒業すると「自立した」と見なされるので、
以降は保護対象にはならなくなる。
当然大学になんて行けない。
俺はすごく大学に行きたかったし、
当たり前に進学できる周りの友人が羨ましかった。

「妹にだけはこんな思いはさせたくない」
と強く思って、自立して必死に働いて貯金した。
妹が高校を卒業する頃には
何とか妹の大学費用を賄える目処が
立つようになっていた。
妹は希望通りの大学に進学できて、
俺も本当に嬉しかった。

それからは家賃の節約も兼ねて二人で暮らし始めた。
母親だけは相変わらず生活保護で暮らしていたが、
俺たち兄妹を長らくネグレクトに晒していた人間だ。
俺も妹も、母親への認識は
「一緒に住んでいただけの他人」だったため、
絶縁状態になった。

それからの生活は楽しかった。
たった二人の家族だけど、暖かい家庭だった。
俺は必死に働いて生活費と妹の学費を稼いだ。
だけど妹のためだから苦にならなかった。
妹が他の家庭の子と同じように生きていけていることが
心の底から嬉しかった。

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妹は卒業して、希望通りの仕事に就職できた。
そうして新生活が始まるという矢先に俺の癌が発覚。
妹は初めこそ動揺していたけど、
「必ず助かるよ」と前向きになって
俺のために色々調べてくれたりした。
それでもどうにもならなかった。

癌の進行が進むにつれて妹も弱気になっていった。
よく泣くようになったし、神頼みをするようになった。
それでも癌は着実に進行していって今に至る。
多分もうすぐしぬ。

そんな妹が昨日、
「私はこれから一人で生きていけるよ。
だから大丈夫だよ」
って言ったんだ。今にも泣き出しそうな顔で。
今まで泣いたり落ち込んだりしてた妹が、
涙を堪えてこんなことを言ってくれたんだ。

すごく嬉しかった。
内心は辛いんだろうに、
俺を安心して逝かせるために言ったんだろう。

なんか妹が小さかった頃を思い出してさ。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
って引っ付いてきてたあの子が、
こんなに強くなったんだなぁって。

最期に妹の成長を見れて良かった。
俺の人生は報われた。妹、ありがとう。

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