子供の頃、近所の家から、
いつも泣き声や悲鳴が聞こえてきた。
奥さんの声。
今で言うDVだったが、
あまりにも子供の頃から聞き慣れていて
「あの家のおばさんは泣き虫なんだな」
くらいに思ってた。
悲鳴がエスカレートしてきた頃、
親や近所のおばさん達が、私たちの前で
「あの奥さんはなんで逃げないんだろう」
「稼ぎがあるし、逃げられないわけじゃないのに」
と噂していた。
子供だからわからないと思ったんだろうね。
実際よくわかってなかったし。
私と弟が、あとで姉にそれを言い
「なんで逃げないのかおばさんに聞いてこようか」
と言うと、姉は「やめな」と止めた。
しかし弟はやめろと言われると
やりたくなる年頃で、
おばさん本人に聞いてしまった。
「みんななんで逃げないのかって言ってるよ。
なんで逃げないの」
驚いたことに、おばさんは泣いた。
私は急いで弟の手をひいて逃げた。
泣き虫なおばさんとはいえ、
大人を泣かすなんて酷いことをしてしまったと思った。
しばらくしておばさんは本当にいなくなり、
私は「私と弟のせいだ」
「叱られる」とびくびくした。
小6くらいまでびくびくしていたと思う。
おばさんの旦那さんは、
おばさんがいなくなったら急におとなしくなって、
ただの無口な酔っぱらいになり、
二年くらい後に引っ越した。
大人になって、
ふと思い出したらしい親に
「近所にいた、殴られてたおばさん覚えてる?」
と言われた。
おばさんは引っ越して半年くらいして、
うちにお礼に来たらしい。こんな小さい子から見ても、
逃げない自分はおかしいんだ!
とショックで、逃げるきっかけになったと
言いに来たそうだ。
親は弟を叱るか誉めるか迷って、
どうしていいかわからず、
弟には言わずじまいにしたらしい。
ちなみに弟は全然忘れていた。
私一人で何年もびくびくしていた意味は…と思ったが、
DVからおばさんが逃げられたのはよかった。