俺とA子は部署の違う社内恋愛。
年齢は同じだが、A子は中途採用なので
俺の方が1年先輩。
A子が入社してすぐに社員食堂で挨拶して、
趣味が同じだったので
仲良くなり付き合うにいたった。
2年たっても3年たってもイチャコラ仲良しで
「そろそろ結婚を」という雰囲気になった。
A子も同様だったようで、
俺を自宅に招いてA子両親とA子妹に紹介。
温かく迎えていただきA子宅にしばしばお邪魔するようになった。
(俺の実家は地方なので年末にでもという予定だった)
ある日、アポ済でA子宅を訪ねると
A子妹が独りでいて
「他はもうすぐ帰るから上がって待っていてください」という。
そこでノコノコ上がったのが運の尽き。
非常識だったなと思う。
応接で新聞読んでて気配を感じ、
顔をあげたらパンツ一つのA子妹がいた。
意味も状況もわからなかった。
そいつが俺に抱き着いてきて、
もっと状況がわからなくなった。
「A妹の気が狂った」と思ったような。
長年忘れようとしたことなので詳しくは書かないが
「姉ちゃんよりわたしが」
「俺さんが好き」といろいろ言ってはいた。
俺は「やめろ。やめなさい」を繰り返してたと思う。
パニックになりながらも身体を引きはがし、
両手を突っ張って必死で防御した。
蹴り飛ばせば簡単だと思ったが、
どんなでもA子の妹である。
それは出来ず、押し合いしてたらA子妹が先に力尽きて諦め
しゃがみこんで泣き始めた。
「こういうことは2度としないように」
と言い聞かせ
「ご両親にもA子にも黙っておくから」
と、その日は素知らぬふりで通した。
そうしたら俺が帰った後、
A子妹があることないことないこと喋りまくり
A子一家が大修羅場と化した。
すごい剣幕で夜中に呼び出され、
地獄の死者のような顔のA子一家に詰問された。
全身から血の気が引いた。
A子妹の言い分が通れば
俺は鬼畜な性犯罪者ということになる。
膝をガクガクさせアゴをワクワクさせ、
乾いて張り付いた舌を必死で動かし全力で弁明した。
どう見ても疾しいのは俺に見えたはず。
本気で人生終わったかと思った。
しかし落ち着いて来れば、
徐々にA子妹の発言も綻びがでてきて
もともと俺側のA子がそこを突っ込み、
最終的にA子妹が自爆気味に白状して
なんとか崖っぷちで誤解を解くことができた。
それでもA子母はこっちをにらんでいた。
娘を信じたいだろうから無理もないが。
A子父はもう少し冷静で
「申し訳なかった。お詫びはまた改めて」といって
「ただ俺くんのことで娘がこうなると、その、つまり」と
要するにもう来るなという趣旨のことを俺に申し渡した。
A子との付き合いが禁止されたわけではない。
A子は何度も何度も謝ってきたし
「難関を愛で乗り越えるんだ!!!」と
一時的にはむしろ盛り上がった。
だがしかし。
俺たちが描いていたのは
「周囲に祝福された温かい結婚生活」で
それはもう崩壊した夢に過ぎなかった。
A子両親の俺に対する複雑な視線は
最後まで変わらなかったから。
逆境に耐えてでも2人だけになっても
愛を貫くような覚悟は・・・正直無かった。
A子は実家住まいで家族からの
ネガなプレッシャーに耐えられなくなり
俺はデート中にA子妹の裸体がフラバして気分が悪くなったり
会話も盛り上がらず、嫌いになってないのに会うのが苦痛になった。
1ヶ月くらい連絡をとらず
(会社ですれ違うくらいはあったが)
独り自宅で「あの素晴らしい愛をもう一度」
を果てしなくリフレインするほど病んだ頃
A子に別れ話を持ち出された。
嫌いになってないので
「いやだ。別れない」と粘った。
A子も「わたしだって別れたくない」と泣いた。
26歳が二人して「別れたくないよ。え~~ん」と声を上げて泣いた。
A子がしゃくりあげながら「でもこれからどうしよう」と言って
2人とも急に正気に戻って冷めた。
「どうもならん・・・」
「縁が無かったねえ」
それで面倒事をまとめて捨てるように別れた。
方法はいろいろあった。
もっと2人で考えれば・・・というのは後から思った話。
A子はその2か月後退職し、
俺の同僚(別部署)の転勤について行ってすぐ結婚した。
この割り切る素早さには驚いた。
同僚は顔見知り程度だったが、
たぶん俺がヘタレで世間知らずで中途半端な常識人で
言えなかった一言、
「安心して俺についてこい」
を言えるやつだったのだろう。
自分を棚に上げて激しく嫉妬した。
A子が退職前に会社で俺の弁護を
吹きまくってくれたおかげで、
おかしな噂からは逃れた。
腫物扱いで身の置き所がないにはかわらなかったが。
直接の修羅場は書いた通り。
だが今振り返ると、失恋後、
全部を失恋のせいにして
仕事も収入も未来も自尊心も捨てようと
していた頃が人生の最大の危機だったような気がする。
それは唐突に出会った今嫁に救ってもらったからいい。
A子夫婦とは何年もたってから1回だけ会った。
仲良さそうだったからまあいい。
A子妹はあっちの人と結婚して日本海を渡った。
わざわざハガキが来たから即捨てた。
こいつはどうでもいいが、
思い出すとやっぱり許せんw