村社会の祭は鬼畜すぎるだろ。
俺がこの鬼畜村に家を建てたのが悪いのだが、
転勤して3年目の今年の夏に家を新築で買ったんだ。
場所はとある村の住宅地だ。
この村では秋に獅子舞が有り集落の一件一件を訪問して踊って
祝儀を集めるんだが、新築や結婚が有ると
派手に踊り祝儀も7万円程を包まないと駄目らしい。
俺も初めての経験で班長に色々と聞いて、
村に溶け込むのも必要だと思い日本酒と祝儀を
7万円を包み嫁と俺の両親や兄弟を呼んで
盛大に祝ってもらおう考えてた。
獅子舞を仕切る団長とやらに新築祝いをお願いした所、
訪問時間や多少の花火の使用をお願いをされたり
真面目そうな奴だった。
そして、祭の日を迎えた。
両親や兄弟が家に集合して
寿司やらオードブルを頼んで飲み食いしながら
獅子が来るのを待ってた。
獅子が我が家に来ると村の住人のギャラリーが
30人くらい野次馬として集まった。
祝儀として7万円と日本酒、
花紙を渡して新築祝いの獅子舞が始まった。
団長が花紙を持って奇声を上げて
何やらお経みたいのを読み上げると。
他の団員も奇声を上げて盛り上がってる。
ギャラリーも拍手喝采だ。
俺も初めて見る獅子舞に
伝統行事も良いもんだと思ってた。
そして狂心乱舞が始まった。
最初は、大人しめの踊りだった。
縁起物だからと言って家族全員の頭を
獅子に噛んで貰ってギャラリーも盛り上がってた。
雲行きが怪しくなったのは、
俺が祝儀として出した日本酒を団長が空けてからだ。
日本酒を空けると団長は
俺に一気飲みを強要してきた。
形だけでも良いから真似事でしてくれとの事だ。
太鼓と笛で煽られて団員やギャラリーの一気コールの中、
少しだけ飲んだ
俺が一気飲みをしてると団員が俺に
「おめでとう」
と言いながらバケツ一杯の水を
何回もぶっかけてきやがった。
俺はぶちギレそうだったが、
何故かギャラリーも大盛り上がりだし
団員も花火を打ち上げて盛り上がってる。
伝統行事だしとも思いながらも我慢してたが、
悲劇はまだ続いた。
俺達が新婚だと団員が分かると何故か
「キス!キス!」
のキスコールが始まった。
仕方なく、ほっぺにキスをすると
再び一気飲みの強要と
「おめでとう」
と言いながらバケツ一杯の水をぶっかけられた。
獅子祭だからと言って一気飲みやキス、
水をぶっかけなければならないのかは謎だが、
この村では当たり前なんだろうとは思うが、
俺にはこの時は早く帰ってくれと願ってた。
両親や嫁も困惑の表情だし、
俺の兄貴はぶちギレ寸前だと表情で分かった。
そして最大の悲劇の踊りが始まった。
大人しい踊りのメロディーが激しい感じのが始まった。
そして、獅子舞が家の中に土足で入ってきた。
総勢6人くらいの獅子舞の踊り手が奇声を上げて
他人の家に土足で上がりリビングで踊ってやがる。
ギャラリーはこの日一番の盛り上がりだ。
「2階まで上がれ~」
「まだまだ~」
等と正気とは思えない声援が飛んでる
獅子が玄関から出てきて踊りが終わった。
リビングの床は勿論、目茶苦茶だ。
ソファーもワラジで汚いし壁も凄く汚い。
そして、俺の兄貴がぶちギレた。
兄貴が団長の胸倉を掴むと持ってた缶ビールを
頭から掛け出した。
兄貴「お前、他人の家を土足で上がって目茶苦茶にしてんじゃねーよ」
団長「すいません。新築はめでたい事なんで
新築や結婚が有るとこのように祝いをさせて頂いてるんですよ」
兄貴「目茶苦茶にして祝いとは気違いすぎだろうが」
兄貴のぶちギレにギャラリーも凍りついてる。
両親は
「ありがとうございました」
と言って団員達を帰らせようとしてたが
兄貴のぶちギレは止まらない。
兄貴は団長を家に上げると獅子頭を壁にぶつけて
凹んだと思われる壁を見せて
「お前の祝い方は家を破壊する事なんか?」
と言ってる。
他の団員も団長を援護してる。
兄貴は、とりあえず警察に通報するから
待機してろと団長に言ってる。
俺もぶちギレたい気持ちだったが家をこの村で建てて、
この先も住むんだからと思い我慢してた。
兄貴「警察を呼ぶから話はそれからだ」
団長「警察だけは勘弁してもらえないでしょうか?
修理はさせて頂きますのでお願いします」
兄貴「お前、都合良すぎだろ。
祭だからと言って好き勝手やってんじゃねーよ」
兄貴は通報すると騒いでた所、ギャラリーから
「めでたい行事なんだから勘弁してやれよ」
との援護が飛んだ
団長は土下座して俺達に詫びを入れてたが、
兄貴は止まらない。
兄貴「お前達がやってる事は祭と言う事を棚に上げて
好き勝手やってるだけだろうが」
団長「本当に申し訳ありませんでした。
家の中は元通りに修理させて頂きますので警察だけは勘弁して下さい」
団長と数人の団員が土下座してた所、
ギャラリーの中から一人のオッサンが仲裁に入ってきた。
オッサンも若い時は獅子舞をしており、
家の中で踊ったり水を掛けるのは、
この村の祭では恒例行事だの事だ。
昔からこの村に住んでる住人にとっては
恒例行事かもだが俺みたいな新参者には理解出来なかった。
オッサンは、他の家でも新築が有るから
今は勘弁してやってくれとの事だ。
他の新築と言っても俺の家の三軒隣の家だった。
翌日に詳しい話し合いをする事になり
獅子舞の連中は三軒隣の新築祝いに向かった。
とりあえず、獅子舞は後味が悪いままに終了したわけだ。
勿論、家を荒らされて祝儀の7万円はちゃっかり
頂戴していきやがった。
俺の母親と嫁は汚いリビングを掃除していて、
俺は水を掛けられてずぶ濡れだったので軽くシャワーを浴びてた。
兄貴は、オッサンと団員の人と何やら外で話込んでる。
シャワーを浴びて外に出ると兄貴達は
三軒隣の新築の獅子舞を見ていた。
俺の家と違う所はギャラリーが圧倒的に
少ない事と家の中での踊りが無かった事だ。
兄貴がぶちギレてた時に段々と場が凍りつくのが分かったし
ギャラリーが少しづつ帰るのが見えたから、
ひょっとしたらギャラリーも冷めてたのかも。
俺も三軒隣の様子を後方から兄貴とオッサンと団員の人と見てた。
兄貴も少しばかりか冷静さを取り戻してたが、
やはり断りも無しに家の中を荒らされるのは理解出来ないと言ってる。
俺も、前もって内容を教えてもらえると準備も出来たから
教えてほしかった事を伝えると、
団員は非を認めて謝ってたが後の祭りで有る。
三軒隣の獅子舞は俺の家とは違い静かに感じた。
俺の家では土足踊りや天狗の面を付けた奴が
ブレイクダンスを踊ったりバク転したり、
松明を持って踊ってたけど三軒隣の家は何も無かった。
俺も途中から見たから見過ごしただけかも知れないけど
日本酒の一気飲みは有ったけど、俺より一気飲み時間が短いとも思った。
まあ、普通に見て獅子舞も終わり獅子舞連中が
他の家に移動しようとトラックに乗り込んだ。
軽トラ3台にぎゅうぎゅう詰めに
団員達は乗り込んで飲酒運転で次の訪問先へ向かっていった。
飲酒運転だと分かったのは団員が
俺の家で酒盛りしてたしその団員が運転してたからだ。
団長は改めて謝罪を俺と兄貴にするとトラックで立ち去っていった。
オッサンも獅子舞が住宅地を去ると帰って行った。
そして兄貴は警察に静かに通報した。
兄貴は匿名で家を荒らされた件には
触れずに獅子舞の人達が飲酒運転で
運転してるから取り締まってくれと言ってた。
獅子舞連中が飲酒で検挙されたかは知らないが
ニュースにもなって無いので何も無かったと思われる。
この地域の警察も黙認なんだろう。
祭の翌日の夜に団長は
自治会長と一緒に見舞金を持って謝罪に来てくれた。
両親や兄貴も帰って俺と嫁だけだったが、
団長と自治会長はスーツで来てくれた。
見舞金は10万円だ。
これで修理して欲しいとの事だ。
もし足りなければ再び請求してくれとも言われたが、
壁の凹みは気にしなければたいしたことないので
修理せずにカレンダーを張って隠してる。
団長の話では新築結婚祝いは団員も凄く士気が高まり
暴走する事も少なくないと言ってた。
過去には結婚祝いの家で新郎を池に突き落としたり、
荒らぶった団員が全裸になって踊った事もあったらしい。
最近では無茶な暴走は少ないと言ってたが
土足踊りだけは恒例行事だから普段のノリでやってしまったとの事だ。
俺も一晩寝て落ち着いてたから
見舞金も丁寧に頂いたんだから兄貴の無礼を謝った。
団長は迷惑を掛けたけど、
村の過疎化で人が少ないから俺に来年から
獅子舞の踊り手として参加してくれと言ってきた。
ここで異議を唱えたのが自治会長だ。
自治会長の言い分は獅子舞は昔から村に住んでる人で
踊るのが伝統だから新参者に踊りに参加させるのは微妙だとの事だ。
よく分からんが踊り手は少ないけど
純村人だけで維持させろと言ってるみたいだ。
俺が来年の獅子舞参加については自治会や
団員と協議して新参者が踊り手に参加可能かどうかとの事だ。
俺としては別に参加もしたくないけど、
村にこの先も住むつもりだから必要なら
参加する意志は有るけど乗り気では無い。
この獅子舞は伝統行事でそれなりの歴史が有るんだろうが、
ノリが内輪で盛り上がってるだけで
俺みたいな新参者が気軽に入れるような雰囲気が無いと感じた。
ちなみに俺が住んでる住宅地は村の人からは、
よそ者団地と呼ばれてるらしい。
会社の人の地区の獅子舞の打ち上げなんかは
宴会にコンパニオンを呼んで村からかき集めた祝儀で
ドンチャン騒ぎをするみたいだ。
俺も、今回の獅子舞と言う狂祭で村との付き合いの
難しさを知ったけど村の人から煙たくされても、
よそ者団地の人達で仲良くしてくつもりです。
俺の住宅地は新参者ばかりだから、
それなりに近所付き合いは良い方だと思う。
色んな伝統行事の祭が有ると思うけど、
村社会の祭は新参者には理解出来ないレベルの
高い厄介な物が有るので注意して下さい。
これからは村人間とは適度な距離感で近すぎず遠すぎずの距離を保って
生活出来ればと思ってます。