地方新聞の支局に勤めていた方から聞いた話です。
新聞社にもたまに変な人が来るそうです。
どう変かというと
「あの事件の犯人は自分だ」
と主張するそうです。
いまだに
「3億円事件の犯人は自分だ」
と言ってくる人や、
すでに犯人が逮捕された事件の犯人は冤罪で、
自分こそが真犯人だと言う人までいるそうです。
ある日、人を殺したと自称する人が来たそうです。
それはバラバラ殺人で、遺体を風呂場で切断したとか
公園のゴミ箱に分散して捨てたとかという話をし始めました。
ただ、その記者さんがいたのは田舎の県なので、
そんな事件は過去十数年間にもなかったはずなのです。
そのへんを問いただしてみたところ、
この県での話ではなく東京での事件だという話でした。
なぜこんな田舎まで来て、そんな話をしようと思ったのか、
と聞くと都会では“監視の目”があるからダメだ、と言いました。
記者さんは、ああ来た来た、やっぱり頭オカシイ人だと確信し、
早く話を切り上げようと思い、矢継ぎ早に質問をすることにしました。
「なぜ殺したのか」→「死んでしかるべき人間だからだ」
「それはどういう意味か」→「それは言えない」
「なぜバラバラにしたのか」→「わかる人にはわかる見せしめの方法だ」
「わかる人とは誰か」→「それは言えない」
という感じで、イマイチよくわからないうえに突っ込んで聞くと
「言えない」の一辺倒になるのです。
それに、なぜ自首しないのかと聞くと、
「はっ(薄笑)警察なんか意味がない」
と心底バカにしたように言うのです。
ではなぜここに来て話そうと思ったのかと聞くと、
少しの沈黙があった後で
「せめて誰かに聞いて欲しかった」
としみじみと言うのです。
もう完全に怪しげにしている記者さんの態度を感じて、
その男は
「忙しいときに時間を取らせて悪かったね…」
と言い、帰っていきました。
頭がおかしい奴には困ったもんだな、
と思いながらも、内容があいまいすぎるので
特に気にも留めていませんでした。
ところが、1週間後、その自称犯人と
予期せぬ形で再会することになりました。
身元不明の溺死体があがったとのしらせで取材に行くと、
死体はあの自称犯人の男でした。
あの日と全く同じ服装だったのです。
調べによると身元がわかるようなものが何もなく
後日、行方不明者などと照合してみても該当する人がいないため結局、
身元不明者があやまって川に転落して死んだ事故死として
処理されました。
その記者さんは
「今でもその溺死は99%偶然だと思っている。
でも、万が一“監視の目”っていうのが本当のことで、
我々のあずかり知らない闇の社会があるのではないかと思う
と『その男は1週間前にウチの社に来ました』、
とは警察に言えなかった」
と言っていました。
僕もこの話を聞いて、
本当に何かの陰謀があったのではないかと思い、
なんだかゾッとしました。