母は私の働く病院に入院しました

抗がん剤も効果なく、
これ以上の治療は、ただ体力を削るだけだと医者から宣告されて
予後をただ穏やかに過ごすために、
母は私の働く病院に入院しました。

夜勤に入る前に早めに行って、いつも通り話をしてると、
「あんたがいてくれて良かった」て急に言われた。

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徐々に弱って、胸水が溜まり始めてたから
ちょ、やめて!フラグ立てないで!てちらっと思ったんだ。
まあ、でも、またとりとめのない話を続けてる内に不安を忘れ、
いつも通り夜勤も終了。

仕事が終わった途端、急に母が苦しみだした。
職業柄、その、先が見えた。
ああ、ついにきた…。
覚悟は決めてた。いずれ、こうなることもわかってた。

「…どうにかして」
すがる様に母が私を見た。
不安にさせないように笑顔で居ることが私の役割。
いつも通り、大丈夫って擦ってあげればよかった。
でも、私は動けず、笑おうとしても引きつって、涙がこぼれた。

やばい!泣いたらだめだ!
慌てて、母から顔を逸らす。背中を向けようとしたとき、

ぐっと手首を掴まれて引き戻された。

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「大丈夫、大丈夫だからね!」
目の焦点さえも私にあわせられていないのに。
手首を掴む手も
力強い声も

昔の、強いお母さんでした。

それ以降母は苦しいとも辛いとも言わずに
それから2時間後に亡くなりました。 

大丈夫。
それは私が言ってあげなければならない言葉だったのに。
私は看護師失格で母からキツイ苦しいの言葉を奪ってしまった。
でも最後に子供でいられた。

どんなに子供が大人になろうとも。
経験を積んで立派になろうとも。

母親には敵わないと思いました。

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