俺の生き方に多大な影響を与えた偉大なるおっさん。

放浪時代、夏は旅館で働いていた。
去年の滞在中によく話をしてくれた釣り人の方が今年も来てくれた。

今年も仲間と一緒に鮭を釣りに来たんだ。
でも、様子はおかしかった。元気が無いんだ。

女将さんが癌だと話してくれた。
末期の癌だとおもう。詳しくは聞けなかった。
船釣りに出かけても午前中で帰ってくる。
悔しそうに「今日は三匹しか釣れなかった」と話していた。

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笑顔なんだ。寂しそうな笑顔。来年もこれるとイイナァって笑ってた。
でも本当に寂しそうに笑って。多分これないだろうけどね・・って。

俺は心臓をつかまれたような、そんな感じだった。
なんて返したらいいのか解らないんだ。
この人は死期を悟ってる、だから釣りにきたんだ。

おっさんは言っていた。
医者にも嫁にもみんなに反対されて、コッソリでてきたって。

俺は売店担当で、昼もいたからよく話し相手になっていた。
釣りの話、本当に楽しそうに話すんだ。
俺はオートバイしか知らないけれど、
そんな風に楽しく話されると俺だって釣りに行きたくなる。
家族も大切だろう、でもおっさんは釣りも大好きなんだ。

釣りをする自由を阻む権利は、きっと誰にも無い。家族の気持ちも解る。
けど、止めちゃいけない気がするんだよ。悔いを残しちゃいけないんだ。
売店で雪駄を買っていった。滞在中の楽な履物を買っていった。

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楽しみにしていた夕飯も、残してしまって悔しそうだった。
僕等だって、今すぐ元気になってお腹一杯食べて欲しかったさ。

おっさんが帰る日、見送る僕等。
雪駄を置いていくという。
来年来たときの為に残しておきますって期間バイトの俺だけど言った。
今思えば残酷な台詞だったと思うけど来年は元気になって、
また釣りに来て欲しいと言った。

帰った後、女将さんは「来年は来れないだろうね」と言い、
俺は反発してしまった。
来年も着て欲しいですよ、そんな悲しいこと言わないでくださいって。
餓鬼だから思ったことは何でも言ってしまった。
でも女将さんだって悲しい顔してたんだ。

不可能なことでも願わずにはいられなかった。
俺は無力で残酷だと思った
餓鬼の自分が堪らなく嫌で、その夜は少し荒れた。

残酷な俺の台詞とか、なにも解ってない俺のことで荒れた。
あんなおっさんになりたいと荒れた。
もっと話しておけばよかったと荒れた。

俺も、おまいらも、高確率で予告なんかない。
悔いは残さないように、毎日足掻いてこう。

あの日、おっさんは確かに生きていた。
でっかい鮭釣って、釣の話をしてくれて、確かにおっさんは生きていた。
健康だけど生きてない奴より、ずっと生きていた。輝いて見えた。

あなたの事は絶対忘れません。

ps・
今は反省している。
あと、おっさんと書いてしまったが、今でも凄く尊敬しています。
もし、また会うことがあったら、一緒に酒でも飲みたいです。

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