片道9キロの通学路(山あり谷あり、途中3km程は獣道)を
小中9年間往復してた私。
低学年の頃は学校に着くまで2時間以上掛かってたが、
中学にあがる頃には片道1時間弱で行き帰り出来るようになった。
最後の2年間は一緒に通う上級生がいなくなってしまい、
女子1人での通学は危険ということで、
飼い犬の佐助(大型の雑種犬)と一緒の通学が認められた。
佐助は学校に着くと職員室の南側につながれて、
授業が終わるの静かに待つ賢い犬だった。
雨の日や冬の寒い日には職員室に入れてもらい、
ボロ毛布の上で丸まって寝ていた。
授業が終わって佐助のところに行くと
千切れんばかりに尻尾を振って私にしな垂れ掛かり、
嫌というほど顔を舐めてくる。
佐助は行きも帰りも道先案内人のように、
私の5メートルほど先を着かず離れず歩いた。
時折振り返り「ちゃんと付いて来てるかい?」
と言いたげな目で私を見て、また黙々と歩く。
私が小学4年のとき家に来た秋田犬とシェパードの雑種。
佐助は、中学生になっても小柄で泣き虫のひ弱な私を
「俺が守ってやらなきゃあかんべな」と思っていたに違いない。
高校進学で山奥の実家を離れ、県庁所在地で下宿生活。
夏休みと正月に帰ると大喜びで迎えてくれた。
休みを終え下宿へ戻ると、私を探してキュンキュン泣いて
4,5日は餌を食べなかったらしい。
その後、大学へ進学し都会へ就職。
実家へ帰るのは正月だけになってしまったが、
1年逢わなくても私を忘れず熱烈に歓迎してくれた佐助。
職場で知り合った人を連れ実家に結婚の挨拶に行ったのが私26の5月。
日がな1日寝ていることの多くなった15歳の佐助は老いていたが、
私を見つけると起き上がり甘えた声を出して体を預けてきた。
後に夫となる彼を「お姉ちゃんの旦那さんになる人だよ。よろしくね、佐助」と紹介すると
彼の顔を見て一声「ワン」と吠えた。
それから3日後、佐助が死んだと電話があった。
佐助は実家の柿の木の下に眠っている。