新幹線で上品なおばさまがずっとぶるぶると震えていたので

武勇伝、と言えるほどのもんじゃないけど、
他に該当スレが考えつかなかったので。 

高校3年生の夏休み、
前半でアルバイトして貯めたお金で、
後半、福岡から神奈川に越してしまった
友人に会いに行った。
その帰りの新幹線で。
席の隣には、朝丘雪路からケバさを削いで、
さらに上品にしたような40代後半くらいの奥様が。
小説を読んでいるようだったけれど、
小説を持っている手が、ずっとぶるぶると震えている。
確かに、新幹線車内は冷房効き過ぎで、
冷蔵庫並に寒かった。

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ふと、荷物の中にかっこつけ用の
無駄ジャケットが入っているのを思い出し、
それを出して

「よかったらこれを着てください。席も替わります。
そちらの方が冷房が直接当たって寒いですし」 

と言って渡した。
奥様はびっくりしていたけれど、
素直に受け取って羽織ってくれ、
席も私の窓側と替わった。

そこへちょうど車内販売のワゴンが来たので、
熱いお茶をふたつ買い、ひとつは奥様に

「これ飲んだら暖まりますよ」

と渡した。
そこから先は、奥様のターン。

「ありがとうありがとう。本当に寒くて寒くて
死にそうだったの助かったわ。私はこれから静岡の同窓会に
行くところなの。え?あなたはまだ高校生?え?大学生かと思ったわ!
じゃあ、卒業したらぜひ家に遊びにいらして。
家は東京の青山というところにあるの。大学生の息子が2人いて、
都内どこでも車で案内させるから!交通費だけ持ってくればいいから。
家に泊まってね。連絡先渡すから、絶対に連絡ちょうだいね。絶対よ」

(本当はこの3倍くらいしゃべってたけど、
昔のことであんまり覚えてないから割愛)
となんだか一気にまくしたてつつ、手帳を取り出して住所、
名前、電話番号を書き記して渡してくれた。

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私は

「え…あ…どうも」

としか言えなかった。
奥様は浜松で降りるときも、ずっと手を振って

「電話してねー」

と絶叫していた。
これで終わりです。
奥様は、知らない人に親切にされて一時的に
テンションが上がってるだけだろうな、
日常に戻ったら、いろいろ忙しくて連絡もらっても
迷惑だろうと思って連絡しませんでした。

私はもともと優しい人間じゃない。
たまたまその奥様がとても儚げで上品で、
守ってあげなくちゃ!と思わせるような人だった。 

それに、自分の母親が人格障害だったので、
こんな母親だったら…とふと思っただけ。
私としては、あんなに喜んでもらえてよかった、
それだけで満足。

現在の私はその奥様の年齢に近づきつつある。
今の時代だったら、メルアドを教えあって、
年の離れた友人として楽しくやり取りできてたのかな…
と思うとちょっと寂しい気持ちに。 

今もお元気で、優しい息子さんと孫に囲まれて
幸せに暮らしていてくれればと思う。

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