中学生の頃、父が大嫌いだった。
おしゃべりでお調子者で背が低く威厳のない父を軽蔑していた。
まぁ、これぐらいの年頃の娘にはよくあることなんだけどさ…
母が若くて綺麗(父と母は20歳差)な分、余計に父が疎ましかった。
中3の夏休み、夏期講習のあと、友人とマックで喋っていて
帰りが少し遅くなった(22時ぐらい)。
電車の中は席は全て埋まっており、酔っぱらいが多くてイヤな感じ。
あと4駅ぐらいで地元の駅に着く頃、ドアの付近で女の人の叫び声があがった。
「や、やめてください!」
「なんだぁ? 俺が痴漢だってのか!」
バシン!
(え?)
と思って見ると、背が高く、
ガッシリしたチーマーっぽい男が女の人を殴っていた。
「や、やめろよ」
と他の男性の声がしたが、
それもドンとかバンという音がして消えた。
「ふざけんな、てめぇら! おら、文句があんなら来いやぁ!」
と、チーマー風の男は怒鳴り、
殴られた女の人はその場にうずくまって泣いている。
(うわーヤダなぁ、関わりたくないなぁ、誰か止めてくれないかなぁ)
と、私はうつむいて気配を殺していた。
他の乗客も私と同様に関わりたくないオーラを
出しながら見て見ぬふり。
「おいおいおーい、ダメだよー女の人殴っちゃ~」
…父の声だった。父が同じ車両に乗っていたのだった。
父はいつもの調子の良い感じでチーマー風の男に近づいていく。
(っ!? 馬鹿親父! 余計なことして怪我したらどうすんの?)
「あ? なんだ、おっさん? やっちまうぞ、おい?」
「まぁまぁまぁまぁまぁ、とりあえず静かにしよう。な? な? な?」
「なめんな、ごらぁ!」
(やられる!)
と思った瞬間、動きが止まったのはチーマー風の男だった。
ゆっくりと倒れ込んでいく男の片腕を取った父はニコニコ笑顔のままで
「はーい、もう大丈夫ですよー。次の駅で降ろしますので、
証言ご協力お願いしまーす」
殴られた女性、チーマー風男が痴漢していたという証言者2人、
殴られた男の人、その駅で降りるから証言するという人3人ぐらい、
そして、私が次の駅で降りた。
「お父さん!」
「ええーっ!? ○美、おまえ、乗ってたのぉ~? あっちゃーまいったなぁ~」
その後、取り調べなどで2時間ぐらいして、
結局、私は父といっしょにタクシーで帰った。
タクシーの中、父は大まじめな顔をして
「お母さんにはお父さんが暴れたこと、絶対に内緒な、な?」
「…あの人になにしたの?」
「ん? いや、パンチなんて10cmからの至近距離でもいけるもんなんだよ。あははは」
その後、私は母に聞いた。
「お父さん、昔は怖かったのよぉー。
でもね、お付き合いする時、お母さんが条件出したの。
『下品な言葉遣いしないこと、怖い顔しないこと、暴力をふるわないこと』
お父さんがずっと約束守ってくれたから、お母さん結婚したのよ」
この事件以来、私は父が大好きになり、
父のような人と結婚しようと思うようになりました。
母が大1の時、バイト先の洋菓子店に客として現れたのが出会いだそうです。
で、父が一目惚れ。洋菓子店に通い詰め、半年ぐらいでお付き合い。
その後、1年間は清い仲wだったそうですよ。
母が大4の時に、父が結婚を申し込み。
母方の実家は歯医者さんで堅い家だったので、バツイチの父との結婚は猛反対。
(見合させるつもりだったらしい)
元々、男の人が苦手(怖かったらしい)な母は、唯一、
心を許せる男性である父とと結婚できないなら一生結婚しないと言い張り、
1週間、ご飯を食べずに部屋に閉じこもって抗議。
「早く孫の顔が見たい」
という曾祖母の応援もあって結婚。
お付き合いから結婚して、今まで一度も喧嘩したことないのが自慢の夫婦です。
(父は今でも「俺は宇宙一の女と結婚したのだから、喧嘩なんかありえない」というw)
日本拳法(にっけん?)だそうです。
今は出版社に勤めています。
一時、スポーツ雑誌の編集をやってた時はボクシングなど格闘技を担当していました。
「おまえ、2ちゃんになんか書いてないだろうな。
俺は安価とかしないぞ。これからミートソース仕込むんだから」
と台所で急がしそうにしています。
っていうか、父、知ってたんだ、2ちゃんw