結婚36年目。二子に恵まれ両者共に巣立ち、
可愛い孫にも恵まれた。
昔はよく喧嘩もしたが、夫婦円満で穏やかな日々を過ごしている。
定年まであと数年。自画自賛ではあるが職務を全うし身に余る立場を頂いた。
ささやかではあるが、しかし充分に満足のいく人生であったと思う。
だが、本日。
私は無精子症であり、
元来子供を設ける事が出来ぬ体と知るに至った。
今更、もはや何をどうしても無意味であるが故、
特段に行動を起こす気は無いが
しかし真っ白になってしまった。
目に見える事、感じる事、全てが違って見える。
齢60を過ぎて情けないが、何か体の半分を失ってしまった感覚である。
これ以上ない親孝行の娘と息子だが、
生物学上は私の子では無いようだ。
残念ながら先天的なものらしい。
ややこしい名前を聞いたが覚えていない。
DNA検査などはしていないし、これからもするつもりは無い。
今更事実を掘り起こしても無意味である事は承知している。
確かに。女房の心中は既に私では計れなくなってしまった。
離婚を切り出されれば対処せねばなりません。
しかし今回発覚した子の件以外では良く尽くしてくれたし、
感謝しきれぬ程でもあります。
従ってその際にはそれを踏まえた対応となりましょう。
弁護士等の知り合いは複数人おります故、
それらに関しては御心配に及びません。
今は恨みも憎しみも無く。ただ途方に暮れるのみ。
例えこれから女房が何をしようと特に困る事も無い。
ただ表現のしようのないこの脱力、虚無感は如何ともしがたく。
会社に独り、帰宅も出来ず、なんと情けない事か。
いずれにしろ、理由がどうあれ、
36年に渡る結婚生活における財産分与には退職金も含まれます。
離婚を請求された時、
事実を持って争えばそれら配分の分母は変わりましょうが、
例え1/2を渡したとしても、私のその後の生活に支障が出る事はありません。
蓄えも充分であります。
ですので経過を見て、女房が動くのであればこちらも動く、
それで問題ありません。
私が早く死ねば女房は喜ぶかもしれませんが、死んだ後の事はどうでも宜しい。
裏切りを悔しいと地団駄を踏むほど、私も若くはありません。
そして少なくともこれまで女房が支えてくれた事は事実でもあります。
これから時間をかけて己の心を整理し、腑に落ちる所で収拾をつけようと思います。
それが例え偽りであったとしても
我が親が倒れた際に、他人であるのにも関わらず天命を全うするまで介護し
私が病床に伏し、生死を彷徨った際にも、懸命に私を支え
子の前で私を蔑む事も無く
とかく挙げればキリが無いが、それが演じられたものであっても、
実際に行動したのは揺るがぬ事実です。
それらの苦労を支えたのが別にあったのかもしれないが。しかし事実は事実。
私が一番でないのでしょうが、恐らく女房の人生の中で
一番面倒を掛けたのは、他でも無い私でしょう。
諸兄のご意見も重々承知。決して我が女房を情でもって庇う訳ではありません。
感情論を抜いた事実の羅列をすれば、充分に女房はやったのです。
この先は計り知れませんがね。
事実に対しては対価があってしかるべき。充分な権利であります。
それは認めざるを得ません。
女房の私への隠された仕打ちに対し、私が報復するか否か。
その判断にそれらを含むのはごく自然で御座いましょう。
ご心配の言葉の数々、感謝申し上げます。
海千山千超えた老人ですので、自らを不幸とする道は走りませぬ故。
ありがとう。