大学時代の友人だったAの話。
とにかく人を褒めたりおだてたりするのが上手くて、
明るい男だった。
友人も多かったし、バイト先では可愛がられ、
教授には気に入られ、ゼミでもサークルでも人気だった。
夏休みに一度、Aがうちの実家の方に旅行に来たことがあって、
実家に俺もいたので招待した。
話が上手いので両親や弟にも大人気だった。
Aが帰った後、母が
「あの子楽しい子ね。でも多分ちょっと怖い子ね、可哀想な子なのかな」
と言った。
それはなんだか意外だった。
社会人になってもAは友達に囲まれ、
仕事も順調そうだった。
ある日、用があってAに電話すると
「風邪こじらして病院行ったら、なんか入院することになったよw」
と言われた。
やんわり断られたが、なんか心配で見舞いに行った。
病院で担当だという医者に呼ばれて行ったら、
「家族に連絡がつかなくて困ってる。病状が悪い。
急性骨髄性白血病だ」
と、言われた。
Aに家族の連絡先訊いても
「誰も見舞いに来ないよー」
とのらくらしてるので、奔走した結果、
Aのアパートの保証人になってた
一番上の兄という人と連絡がつき、病院に来てくれた。
そのお兄さんの話では、Aの家は7人兄弟で、
無職パチカスでアル中の両親に、
殴られたりネグレクトされて育ったという。
その父も10年前に失踪し戸籍上死亡していて、
母も3年前に失踪したらしい。
そんな話はAから全く聞いたことがなかったので
驚いた(思えば自分の家族の話はうまく逃げてた)。
Aは回復しないまま1ヵ月後亡くなった。
お兄さんから
「Aのアパートを片づけるので、申し訳ないが
案内&手伝いしてもらえないか」
と頼まれ、アパートに行った。
片付けを手伝って、台所の物を処分してる時、
流しの下の棚の奥に、大きな鼠ランドの土産の缶を見つけた。
開けると、ムッとした臭いがした。
ティッシュにくるまれた3本くらいの汚い歯と、
金の結婚指輪2個と、汚い水に浮いてる
オッサン?の写真が2枚入ってた。
お兄さんに
「これ何でしょう」
と渡すと、お兄さんはジッと写真を見た後、
いきなりコンロにフライパン置いて、
ライターで写真を燃やしてしまった。
歯も指輪もガムテープでグルグルに巻いて、
ポケットにサッとしまった。
その後は少し気まずい思いで片づけをした。
お別れの時、お兄さんから
「今日は手伝いありがとう」
と言われて3万も渡された。
お金は
「Aの追悼飲み会やろう」
とSNSで呼びかけ、
その飲み会でパーッと使ってしまった。
勿論、気まずくなった缶の話は誰にもしてない。
あれからもう10年近く経つけど、
時々思い出すんだけど、誰にも言い辛いことなので
ここに書いてスッキリした。
母はAをああ言ったけど、やっぱりあんな楽しい、
良い友達はそれ以降も出来ない。