ストレスのスの字も感じない職場だった。  が、その楽しい日々が 一人の女のせいでメチャクチャになった

当時、私は
精密機械を設計・製造する会社で営業事務をしていた。
会社は大きくなく、社員数も少なかったが、
一応、設計部とか営業部とかに分かれてた。

製造する工場だけが別の場所にあったけど、
一つの部屋で、机の島だけが分かれていて
設計部も営業部も皆仲が良く、
ワンマンな社長がちょっと苦手だったけど楽しい会社だった。

設計部は男性3人、女性1人と4人の設計士さんがいた。
営業部は男性3人、営業事務が私を含め2人。
あとは経理や総務をしてくれる
ベテラン事務員さんが1人。

ストレスのスの字も感じない職場だった。
が、その楽しい日々が
一人の女のせいでメチャクチャになった。

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まずはメチャクチャ女スペック

当時35歳 社長の知り合いの娘。
見た目は山田邦子とかアントニオ猪木とかそんな感じ。
顎が特徴。しかもちょっとデブ。
『アントン』と呼ばせてもらいます。

ベテランさんスペック
当時35歳 見た目は小林聡美。
面白くて頭が良くて、誰からも好かれてた。

重要人物じゃないけど、私スペック
当時 24歳
周りからは井上晴美を小さくした感じって言われてた。

アントンは最初の登場からして凄かった。
営業事務は私ともう一人
ユリさんって人とでやってたんだけど、
ユリさんが結婚して退職する事になってた。

ちなみにユリさんは私より一つ年上の25歳。
蛯原友里似の美人さん。
ユリさんの後釜として来たのが、アントンだった。

その日の業務が始まる前に、社長から皆に紹介された。


「今日からここで頑張ってもらうアントンさん。
営業部に入ってもらう。宜しくな。」

「よろしくお願いします」


「私、設計がしたいです。」

「え?」

「設計部がいいです。」

「いやいやいやいや・・・う~ん・・・
じゃ、設計部・・・にしようか」


「今日から設計部に入りますアントンです。
父は会社経営してます。
昔はここの社長の面倒みてました。
宜しくお願いしまっす!ハイ!以上!」

「(苦笑い)」

「・・・宜しくお願いします・・・」

みたいな感じだった。
皆、「???」って感じだったけど、
仕事が出来る人なら問題ないと
アントンのおかしな発言はスルーしていた。

業務開始直後、とんでもない事が発覚した。

自分から設計がしたいと設計部を希望しといて、
CADが使えない。
もちろん、設計なんか今までやった事もない。
専門知識もない。

でもアントンは
「教えてもらったらすぐ出来る。覚えるのは早い方やから」
て自信満々。
社長が見て見ぬ振りしてた。

ユリさんが
「社長の知り合いの娘って・・・
何の知り合いなんだろうね。」って言ってた。

私は本能的にアントンとは関っちゃいけないと思った。

もちろん設計出来るわけもなく、
雑用する事になったらしい。
アントンは、設計さんにコピーを頼まれた。

が、何故かアントンは不機嫌。
どうもコピーをとるという業務が気に食わなかったらしい。
設計さんから受け取った書類を、私の所へ持ってきた。
「これ、コピーしてきて」と。

私は営業部。アントンは設計部。
ちょうど私は、
急ぎの見積書を作っていた最中だったし、
一瞬「ん?」と思ったけど、
コピーの使い方が解らないんだろうと思い、
私はアントンをコピーの所まで連れて行き
「このままセットして、ボタン押すだけです」と
説明しながらやっていた。

が、アントンは自分の席に戻っていた。

とりあえず、コピーした書類をア
ントンの所で持っていくと
「ちゃんと出来た?じゃ、次これFAXしてきて」と
次の書類を渡された。
アントンのPCを見るとエクセルの表があり、
下に小さい窓でヤフー知恵袋が開かれていた。

勤務一日目からこの態度。すごい人だと思った。

さすがに設計さんが、
「アントンさん、あんたに頼んだんやから。」と
助け舟を出してくれた。

するとアントンは舌打ちをし
「バン!」と机を叩いて立ち上がりFAXを送りにいった。
今までそんな人が居なかったので、皆凍りついた。

ベテランさんだけがニヤニヤしてた。

アントンはFAXを終えて自分の席に戻ってくるなり、
書類を机に投げ喫煙室へ消えた。

とりあえず、その日はユリさんのお祝いと
アントンの歓迎会を兼ねた飲み会があった。
皆の時間や予算的に、歓送迎会的な感じだった。
主役は2人。
場所は、皆がよく行く居酒屋さん。
小さいながらも大将も面白いし、
料理も安くて美味しい良い店だった。

が、店に入るなりアントンが
「は?何よこの店。私こんな店始めてやわ。狭いなぁ。」
と言い出した。

当然、大将も聞いていたので社長が
「あ、アントンさんは社長令嬢やからなぁ。
ここ、メッチャ旨いねんで」と一応のフォロー。

皆も口々にフォローにならないフォローで
その場を誤魔化した。

そんなこんなで席につき、
とりあえずビールで乾杯しようという事になった。
皆のグラスにビールが注ぎ終わって、
社長が乾杯の音頭をとろうとしたが、
しかし、やはり相手はアントン。
そう簡単には乾杯させてくれない。

「私、ワインしか飲めません。」

しょうがないので、ワインを注文。
きたワインを見るなり
「これはどこのワイン?」とか言い出した。

アントンと一緒に上座に座ってるユリさんは、
ずっとテーブル見てた。

私は、アントンと離れて座って良かったと思った。

そして皆のビールの泡もなくなった頃、
やっと乾杯が出来た。

皆がユリさんの結婚相手について色々質問してた。
笑顔で答えていくユリさんが凄く綺麗だった。
ユリさんは美人だし優しいし、
旦那さんは幸せだろうなって思った。

ちなみにユリさんの結婚相手は歯医者さん。

アントンが明らかに不機嫌になってきた。
営業さんがもう1人の主役アントンを気遣って、話かけた。
普段でもメチャクチャなアントンが
お酒が入ってまともになるわけもない。

それからは、アントン1人が主役。

離れて座って安心していた私だが、
アントンの言動には興味があった。
アントンは声がデカイのでよく聞こえた。

とりあえず、私とベテランさんと
友近似の設計さんはアントンチェックを開始した。
アントンは、
誰に言うでもなく自分についてたんたんと語っていた。

どこの会社にいっても部下から慕われる。

いずれは親の会社の経営に携わらなければならないので苦痛。

どこで働いても、自分の能力を活かしきれない。

とりあえず私はお金持ち。お金に困ったことがない。

有名俳優や歌手にプロポーズされた事がある。

今は、3人からプロポーズされている。などなど。

友近さんはひいてた。
でも私とベテランさんは興味津々。

たった10分くらいの話で
私達3人を満足させてくれるアントンって
ほんとうに凄い人だと思った。

アントンは自分のことを話し終わると、
注文した料理の話に移った。

この味付けは何か一味足りない。

このワインはなんでこんなに不味いのか。

この料理なら私は3分で作れる。

素材が悪い。もっと新鮮な物じゃなきゃだめだ。などなど。

これは大将の耳には入っていなかったので良かったが、
ちょっとハラハラした。
でもベテランさんは「やっぱりアイツおもろいwww」
って大爆笑だった。

それから私達は大好きなスルメの天ぷらを食べながら
今後の楽しい日々を想像して盛り上がっていた。

アントンはとにかく食う。飲む。
胃下垂だから大丈夫なんだって言ってた。デブなのに。

歓迎会ももうすぐお開きだという頃に、
不味いと言っていたワインを2本半飲み、
ワインしか飲めないといってたくせにビールも数本飲み、
料理を食い散らかしたアントンがやっと大人しくなった。

皆ちょっと疲れてた。

それから30分程してその日は解散した。

次の日、アントンは休んだ。

理由は
「二 日 酔 い」。

やっぱりアントンは関っちゃいけない人だと思った。

とりあえず、アントンは使えない人だった。
でも『出来る女』を演じるのが好きだった。

35歳だから、
それなりに事務仕事は出来るだろうと考えていたけど、

両面&縮小&拡大コピーが出来ない。
エクセル・ワードもぼちぼち。

電話応対&敬語が変。

そのくせ、全てにおいてオーバーアクション。

一度にコピーを撮ればいいのに数回に分けてバタバタ走り回る。
電話を取れば耳と肩に受話器を挟んで、
何故か自分のスケジュール帳みたいなやつにメモ。

皆アントンには
急ぎの仕事や重要な仕事は廻さないようにしてた。

だけど、アントンは常に忙しそう。

電話をとっても早口で乱暴。
PCのキーボードはガンガンドスドス。
引き出しを閉めるのはバーンバーン。

いつもアントンの周りでは色んな音がしていた。

そんなある日、アントンがとうとう

や ら か し た。

いつものように設計の出来ないアントンは
FAXを送るよう指示されてた。
不貞腐れながらもFAXを送り、また喫煙室へ消えていった。
最近では、アントンの行動にも
皆慣れてきて普通の光景だった。

しばらく経つと、FAXを送ったA社から電話がかかってきた。

「電話番号にFAX送ってない?
何回もコール鳴るから取り消してよ」と苦情の電話。

そこへアントン登場。

設計さんが
「電話番号にFAXしてるらしいからやり直して」
と書類を渡すと、「間違ってません。」と一言。

苦情の電話がきた事を話しても
「間違ってません」とまだ引かない。

とりあえずもう一回送るようにと言われ、
舌打ちをしながらFAXを送りにいった。
さすがに今度は喫煙室へは行かなかった。

ドスンという音と共に椅子に座ると、
ガンガンドスドス始めた。

設計さんもちょっとイラッとしてたし、
周りも凍りついてガンガンドスドスだけが響いていた。

ベテランさんは私と目が合うと
アントニオ猪木の顔真似をしてきた。

ガンガンドスドスの中、また設計部の電話が鳴った。

アントンは電話も取らず、
ガンガンドスドスを続けていた。
仕方なしに友近さんが電話をとると、
どうやらA社かららしい。
ひたすら謝っている。

そして、電話を保留してアントンに
「また番号間違えた?早く取り消して」と言うと
アントンはいきなりA社からの電話に出て

「何なん?私は間違えてないし!は?
じゃ、番号言ってみなさい!・・・え?最後が6?
・・・そんなん電話とFAX似たような番号にするから悪いんやろ!
・・・は?とりあえず送るからもう電話せんといて!
私が怒られるんやから!」ガチャン!

慌てて社長がA社に謝罪の電話をしてた。
バカ社長、目を覚ませと思った。

アントンは
「今日はもう仕事出来る感じじゃないので帰ります」と
帰っていった。

が、すぐ戻ってきて友近さんに

「あんたな、私より年下や。口の利き方も知らんのか!
 ちょっと設計できるからって調子のんな!」

と暴言を吐いて帰っていった。

ちなみに友近さんは27歳。
普通ならこの時点でクビ決定。

皆、ムカついたりショック受けたり空気が凄く悪かった。

ベテランさんが皆に「嫌な事忘れる薬入れといたで」と
コーヒーを入れてあげてた。

やっぱりベテランさんは凄いと思った。

営業部は、営業さん3人です。
私は営業事務。
この時はまだユリさんがいたので、
営業事務は2人でやってました。

次の日アントンは普通に出勤してきた。
昨日の事がなかったみたいに振舞ってた。
しかも、何があったのか凄くご機嫌さんだった。
友近さんにもお菓子とかあげてた。

普段から浮き沈みの激しい性格だったけど、
ちょっと怖かった。
何でクビにならないのかもわからなくて、
色んな意味で怖かった。

こんな感じのアントンだったので、
アントンが席を外すたびに、
設計部からはアントンを外してくれと
社長にお願いするようになった。

辞めさせるは無理だろうから、
製造の工場で使ってはどうかという話もでた。

でも、ワンマン社長は、
知り合いの人の娘さんという事もあり困っていた。
アントンはとりあえずデスクワークがしたいらしい。

そこでワンマン社長が出した答え。
「よし!営業部で頑張ってもらうから」

その時の皆の反応をみて、
アントンが居なくても凍りつくんだなぁって思った。

もちろん営業部は猛反対。
営業の方が電話・FAX・コピーや雑用が多いので
絶対に無理だ。

しかもユリさんもまだ居るし
ベテランさんも手伝ってくれてるから、
充分だと訴えた。

けどそこはワンマン社長。聞いてくれるわけもない。
ってことで、次の週からアントンは
営業部で仕事をすることになった。

ユリさんが何故か「何か・・・ごめんね」って謝ってきた。
私はちょっとお腹が痛くなった。

同じ部屋と言えども、
部署が離れて喜んでいるのは友近さん。

友近さんは明日から週末まで、
製造の工場の方へ会議で行くことになっていた。
だから、今日でアントンとの仕事は終わり。
あんなウキウキした友近さんは久しぶりに見た。

そんな友近さんにベテランさんが
猪木の顔真似しながらガッツポーズしてた。

顔真似がちょっと上手くなってた。

ところが、次の日。
社長が営業部への異動を伝えるため、
アントンを会議室によんだ。

しばらくしてバーンと
会議室からアントンが飛び出してきた。

そして

「私はまだまだやり残した事があるんです!
設計部も私が欠けると困ります!」
って、叫びだした。

皆が「え?何が?」って感じだった。

社長は悩んでた。
そして 「じゃ、これからも設計部で頑張ってもらおうかな」
って言った。

皆が「え?何で?」って感じだった。

結局、アントンはもとの設計部で仕事を始めた。
週明けの友近さんの唖然とした顔を今でも忘れられない。
普段は引き締まった顔なのに、
その朝は稲中に出てきそうなユルイ顔になっていた。

そんなこんなでユリさんも辞め、月日は流れ、
設計部の皆が諦めと絶望を感じ、
アントンの扱いにも慣れてきた頃、

営業部に新しい事務員さんが入ることになった。

私は一緒に仕事をする人なので、
良い人がいいなぁっと思ってた。

この人も重要人物なので、名前を付けます。
とりあえず今回も綺麗な人だった。
雰囲気的に滝川クリステルみたいな人。
なので、クリステルにします。

クリステルも35歳。
アントン、ベテランさんと同い年。

クリステルは、性格温厚で覚えが早く
しかも仕事が丁寧だった。

この才能の一つでも
アントンにあげればいいのにって思った。
余談だけど、社長は「女は35歳から」って言ってた。
だから35歳がこんなに集まったのか、たまたまなのかは謎。

私1人お子様みたいでちょっと寂しかった。

そんなクリステルはベテランさんとも気が合い、
ほかの人からのうけもよかった。

でも予想通り、アントンはクリステルを嫌ってた。
常に先輩面して、クリステルに雑用を押し付けてた。
クリステルはアントンに
理不尽な事言われても常に温厚だった。

私もこんな人になりたいと思った。

常に『出来る女』を演じてたアントンは、
自分の方が仕事が出来て上の立場だと思っていた。

アントンのポジティブさも見習おうと思った。

クリステルの歓迎会の日、設計部に問題発生。
設計の修正箇所を電話で聞いていた
アントンの連絡ミスで、
大慌てで修正することになったらしい。

今更アントンを責めても
逆切れされるのは分かっているので、
皆何も言わなかった。

なので、クリステルの歓迎会は
営業部だけでやる事になった。

もちろんお店はいつもの居酒屋さん。

アントンが居ないせいか、
クリステルが良い人過ぎるせいか、
とても楽しい時間を過ごしていた。
何か昔に戻ったみたいで嬉しかった。

が、なぜかアントンが登場した。

後で設計の人に聞いた話によると、
アントンは自分が行かないと始まらないと言い出したらしい。
クリステルの歓迎会なのに・・・。

皆がバタバタしてるのに、
「部下の歓迎会には出る!」と言い張ってたらしい。
部下ってなに?部署違うし。
『出来る女』の妄想が
設計部の部長くらいまで出世したようだ。
でも、皆アントンが居ないほうが
仕事が捗るので行かせたらしい。

こっちはいい迷惑だった。

アントンは、
来るなり「やっぱりまたこの店かぁ」と言った。
帰ればいいのにと思った。

クリステルは大人の対応で、
「お忙しい所ありがとうございます」って言ってた。

ベテランさんは、
ニヤニヤしながらスルメの天ぷら食べてた。

アントンはまた不味いと言いながらも
またワインをがぶ飲みしてた。

しばらく経つと、アントンがご立腹。

今日はクリステルの歓迎会なので、
皆がクリステルを主役にするのは当たり前なのに、
アントンはそれが気に入らなかったらしい。

いきなりクリステルにあれこれ質問しだした。

前はどんな仕事をしてたのか。
実家は何をしてるのか。
出身はどこか。
結婚はしてるのか。などなど。

この質疑応答で、
それまで不機嫌だったアントンが急に元気になった。

理由はクリステルが片親で育てられて、
高校卒業後すぐ働き出した。
結婚はしているが、旦那さんは出張が多いということ。
その後のアントンは、今まで以上に本当に最低だった。

片親で育ったって事は貧乏だったんだろうとか、
高卒でちゃんとした知識はあるのかとか。

旦那は絶対ほかに女がいるとか、
子供いないなら結婚してる意味ないから離婚しろとか。

私は始めて人を殴りたいと思った。

酔った勢いとはいえ、言っちゃいけない事がある。
こいつ本当に極悪人だと思った。
周りもいい加減にしろと止めていた。
そんな時でもクリステルは大人の対応をしていた。

私は何だか泣きそうになってきた。

ベテランさんはビールをピッチャーで注文してた。

空気の悪いなか、アントンはそんな事全く気にせず、
自分の金持ち自慢や大学時代の事を話していた。

クリステルがトイレに立ったすきに、
アントンが上座を占領してた。
アントンはずっとしゃべってた。うるさかった。

昔から、ブランド物のバッグしか持ったことがない。
クリステルが使っているようなバッグはスーパーの袋と一緒。
一回使ったら捨てるのが私の基本。

パリスヒルトンでもそんな事しない。
ほんとバカだと思った。

気づけばアントンの側には私しかおらず、
皆はクリステルが席を立ったと同時に
ちょっとづつ席を移動してた。

ベテランさんはピッチャーを受け取りながら私に、
「飲み物来たぞー」と助け舟を出してくれた。

アントンから離れピッチャーを受け取ろうとした瞬間
ベテランさんが

アントンの方へビールをぶちまけた。


「ウギャー!ちょっと!何してのよ!ウギャー!」

「ごぉめぇーん。私酔ってるみたいやわぁ」

ビショビショになり喚くアントン。
急に酔っ払いになったベテランさん。
トイレから帰ってきて
呆然とその光景を見詰めるクリステル。

私とほかの人はキョロキョロしてた。

ベテランさんが「ごめんごめん」と言いながら
トイレにあったタオルでアントンを拭いていた。
その後、お店にモップ借りて床とアントンの靴を拭いてた。
私たちも大将に布巾をかり、テーブルとか拭いた。

さすがのアントンも
ビショビショのままで居るわけにいかず、
プリプリしながら帰っていった。

そのあと、ベテランさんは大将に
「ビショビショにしてごめんなさい。
飲み物粗末にしてごめんなさい。」と
ひたすら謝っていた。
大将が笑顔で「気にせんでええよ」と言ってた。

ベテランさんはクリステルや私たちにも謝ってきた。
私は結構飲んでたせいか、何故か号泣してた。
アントン以外の人が良い人すぎて涙が止まらなかった。

大将にアイスを貰って、
皆がタクシーに乗せてくれてお家に帰った。

さすがに次の日アントンは休まなかったけど、
ベテランさんにネチネチ昨日の事を言ってた。

ベテランさんは素直に謝ってた。
謝ってるベテランさん見て、ちょっと心苦しくなった。

この日のアントンはいつも以上に不機嫌だったけど、
営業さんが買ってきたケーキを食べたら機嫌良くなった。
人数分のケーキなのに、
外出してた営業さんの分まで食べてた。

それから数日間アントンはちょくちょく問題を起こしたけど、
皆普通に過ごしてた。

皆大人だと思った。

クリステルは前の会社でやっていたとかで、
営業事務はもちろん
経理や人事・総務などオールマイティな人だった。

ベテランさんと凄く気が合うらしく、
2人は仲が良かった。
よく私と友近さんも誘ってくれて、
4人で飲みに行ってた。

ベテランさんとクリステルは
「ほんと私たち不良主婦だねぇ」って言ってた。

何回に一度は社交辞令でアントンも誘ったけど、
「彼氏と会うから」と言って来なかった。
しかも皆に聞こえるくらい大きい声で言ってた。

ブスでデブで性格悪いうえに難聴かと思った。

ここまでで分かると思うけど、
アントンには良い所がひとつもない。
如いて言うなら、親が金持ちって事だけ。
この金持ちっていうのも嘘かと思ってたけど、
社長曰くこれは本当らしい。

そんなアントンにある朝一番「飲みに行こう」と誘われた。
しかも二人きり。

もちろん即答で「無理です。用事あります。」
って言ってた聞く耳持たず。

助けを求めようと周りを見ると
ベテランさんが口パクで「行って来い」って言った。
クリステルは何故か指でOKサインしてた。
友近さんはニヤニヤしながらPCの画面に向かってた。

午前中は仕事が手につかなかった。
基本、女性陣はお弁当持ちだったので
休憩室で食べてたんだけど、
金持ちアントンだけはいつも外食してた。

4人になった時、
あのOKサインと「行って来い」の意味を聞いた。
すると、友近さんがとんでもない事を言い出した。

「アントンは営業に好きな人おんねんで」

全く意味が分からなかった。

まず、アントンには彼氏がいるはず。
3人からプロポーズをされてるはず。
100歩譲ってそれが嘘だとしても、
今までの醜態を見せてて好きになるも何もないもんだ。
バカかと思った。

しかも、なぜ私がアントンと2人で
飲みに行かないといけないのか。
全く意味が分からなかった。

話を詳しく聞いてみると、
アントンが好きなのは私の隣の席の営業さんだった。

これといって芸能人に似てる人がいないので、
「営業男」ってよびます。
営業男は32歳、独身。まぁシュッとした感じの人。

どうしてそれが分かったのか聞くと、
皆が「見ればわかる」と言ってた。
大人だなぁって思った。

ベテランさんとクリステルは、
アントンもきっと一人で寂しいはず。
自分達にはあまり話しかけてこないけど、
晴美(私です)は気に入られるようだから、
ちょっとでも歩み寄ってやろうじゃないかと、
他人任せだけど大人な考えを言ってきた。

友近さんは、
「本当にアントンに恋人が出来れば、
心落ち着いて良い人になるはず」
という結論を出していたけど、
どう考えても生贄になる営業男が可哀想だった。

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どうしても営業男を生贄にするのかと聞くと、
「片思いでもいい。
好きな人が側で仕事をしてるだけで落ち着くかもしれない」
という。

とりあえずアントンの相談を受けて、適当に立ち回れ。
もちろん力は貸すからと。

友近さん1人張り切っていた。

35歳達は、
「あんまりいらん事したらあかんで」
って心配そうだった。
人の恋愛感情を弄ぶのは禁止とも言われた。

でも私は友近さん命令で生贄となった。

しょうがないので、
その日の帰りアントンと飲みに行った。
アントンは本当に金だけはあるらしく、
結構高そうな店に連れて行ってくれた。

まずはビールとワインで乾杯。
料理を注文しようとメニューを見てみると、
本当にお高い。
ふとアントンを見ると、
キモイくらい目を細めて煙草に火を付けてた。

結局、スルメの天ぷらはなかったから適当に頼んだ。

注文も済み店員さんが消え、
二人きりになった時アントンが言い出した。
「晴美、あんたにちょっと相談があるねん」
キタ!と思ってアントンを見ると、遠い目をしていた。
クリステルがやると、
絶対見惚れるくらいキレイな表情だと思った。
でも相手はアントン。バカにしか見えない。

しかも口から煙草の煙が出て
微妙に鼻の穴に吸い込まれてた。
心の中で「ザキ」って呟いた。

話が長かったので適当に端折って書くと、

営業男が好きだ。
今までの男は飽きたので振った。
お前は営業男と仲が良いんだから、なんとかしろ。

って事だった。

たったこれだけの内容を2時間に渡って話された。

確かに席が隣なので、結構仲はいい。
でも、私と営業男の話の中で一番盛り上がるネタは
アントンのガンガンドスドスだったり、
アントンのクリステルいじめだったりする。

営業男も本当に可哀想だなぁって思った。
何の特徴もないけど良い人なのに。

早く帰りたかった私は「じゃ、協力しますよ」と言って
話を終わらそうとしたけど、
アントンは営業男の良い所を延々と話続けた。

やっと開放されて携帯を見ると、
友近さんからメールが来てた。

「どうでしたか?帰ったら電話下さい」
どうでもいい情報だけど、
友近さんはメールになると、標準語&敬語になる。

しょうがないので、電話して報告した。
友近さんは
「あんたの今後にかかってるんやで。頑張ってや」
って他人事だった。

とにかく大好きな皆のために頑張ろうと思った。

次の日、アントンに昨日のお礼を言おうと探していると、

バーン!という音と共にドアが開いて
ご機嫌アントンが出社してきた。


「昨日はありがとうございました。ご馳走様でした。」

「ええよええよ。」

(営業男出社)

「晴美は妹みたいに可愛いから、また飲みに行こうなぁ」
もちろん最後のは営業男に聞こえるくらいのデカイ声。

『出来る女』スキルに『年下に慕われる女』が加えられた。

始業開始10分。アントンによばれた。
今日中に好きな人はいるか、
どんなタイプが好きか聞いてくれという。

「好きな人はいるか」はまぁいいとして、
「どんなタイプが好きか」を聞いて
どうするのかと思った。

今更どうあがいても、アントンはアントン。
変われない。

でも昨日奢ってもらったので
素直に「了解です」って返事した。

席に戻るなり、営業男が
「アントンの次のターゲットお前か?」
って笑ってた。
知らぬが仏って言葉の意味が
これほど理解出来た瞬間はない。

営業男も外出し、
アントンには帰りまでに聞いときますと報告した。

昼休み、
「アントン恋する乙女大作戦(通称AKO)」
の報告会をした。

友近さんが、
「よく食べる人がタイプって事にしろ」って言った。
アントンの良い所を金持ち以外で探したらそれだったらしい。
するとベテランさんとクリステルが
「でも、アントン騙してちょっと可哀想」とか言い出した。

ベテランさんはまだしも、
クリステルはアントンにすごく意地悪されてたのに
どこまでも優しい人だ。

でも友近さん曰く、
私たちから仕掛けたわけじゃない。

アントンから晴美に勝手に相談してきただけだし、
どちらにせよアントンは振られる。
その期間を延ばしてるだけという事だった。

私も賛成した。
私が頑張ればアントンも幸せ、皆幸せ、万歳だという事。

とりあえず、続けようということになった。

15時頃、営業男が帰ってきた。
私は見積もりを作るよう頼まれた。
ちょっと溶けたミルキーを貰った。

ミルキーを食べようとすると、アントンに呼ばれた。
アントン第一声「ミルキーちょうだい」。
もちろん渡した。

これ以上アントンに呼ばれたくなかったので、
AKO会議で決まった事を報告した。
「営業男は良く食べる人がタイプらしいです」

アントンがニンマリした。キモかった。

次の日からアントンは営業男が事務所にいる日は、
私たちと食べるようになった。
もちろんどっかで買ってきたお弁当やパン。

ベテランさんが「ほんとよく食べるなぁ」というと
「うん。私食べるの好きやねん」って
キモイ笑顔にデカイ声で答えてた。

アントンは結局、
ベテランさん達にも営業男の事を相談してた。
クリステルをあれだけいじめといて、
よく相談出来るなと思った。

しかも、アントンは私に
とんでもないミッションを言ってきた。
その日のアントンの食べた量を
営業男にそれとなく報告しろという。

誰もアントンの食べた量なんか聞きたくない。
ましてや、本当は何の関わりもない
営業男に聞かせるのは酷すぎる。
しょうがないので、
適当に「了解しました」と返事した。

すると、何故か営業男から突然
「最近、アントンと一緒に食ってんの?
アイツ何食べてんの?」と聞いてきた。

いきなりの展開にビックリしたが、
これ幸いとアントンのミッション通り
アントンの昼食摂取量を報告した。

もちろん本当に大食いだったので、営業男も驚いてた。

「マジで?アイツ何になるつもりやねんwww
食いすぎやろwww」

こんな反応アントンに報告出来ないので、
唯一のAKOメンバー友近さんの指示を仰ぐことにした。

友近さんを給湯室に呼んだ。

これまでの経緯を話すと、
「ちょっと嬉しそうな顔してたって言ってたら?」と
危険な事をいう。

それでアントンが本気になったらどうするのかと聞くと、
「アントンはあぁ見えても、
ほんまに好きな相手には奥手やから大丈夫や」との事。

心配しながらも、アントンに報告した。

アントンは「ムヒョッ」ってキモイ笑い方した。
「ム」の時にいつも以上に顎が出てた。
でも、本当に営業男を好きになった頃から、
アントンは暴れなくなった。
恋の力って凄いって思った。

AKOのおかげもあり、平穏な日々を過ごしていった。
ベテランさんとクリステルには、
いい加減にしろと言われていたけど
AKOは解散しなかった。

最初は嫌だったが、
アントンミッションを友近さんが答えを出してくれ、
私はそれを実行するだけだので、結構楽だった。

が、事件は起きた。

ある日、年末も近づき
今年も平和に終わるかなぁと思っていた12月中旬。
久々にワンマン社長が「皆で飲みに行こう」と言ってきた。

私は暇だったのでOKした。
ほかの人も営業男もOKした。

もちろんアントンもOKした。

いつもの居酒屋到着。

いきなりの集合でも、集まりの良いメンバー。
和気アイアイと飲んでた。

そしたら何故か結婚の話になった。
独身組は結婚願望があるのかとか。

私はハッキリ「あります!」と答えた。
彼氏居なかったけど。

営業男は
「したいですよぉ。
でも良いと思う人は皆結婚してたり、
彼氏居たりするからなぁ」って言ってた。

聞かれてもないのにアントンが
「私は今フリーだし」って言ってた。

無視されてた。

するとワンマン社長が営業男に
「どんなんがタイプやねん。」って聞いた。

はい、ここからが事件です。

営業男
「クリステルさんみたいな人がいいです。
何で結婚してるんすかぁ」

怖くてアントン見れなかった。

とにかく私はトイレに逃げた。
そしたら、トイレのドアをトントンされた。
絶対アントンだと思って開けたら、
猪木の顔真似したベテランさんだった。

アントンは帰ったらしい。
帰る前にクリステルを思いっきり睨んで帰ったらしい。

クリステル・・・ごめんなさい・・・。

とりあえず、社員一同は一致団結してアントンから
クリステルを守ることにした。

ここで営業男がある告白をしてきた。
聞くところによると、
アントンが営業男を好きなことは営業男も知ってた。
でも、気づかない振りをしてた。

自分のせいで、こんな事になって申し訳ないので
何か出来ることがあれば言ってくれという事だった。

ベテランさんは
「じゃ、アントンと結婚してくれ」と言った。
無茶苦茶すぎる。

営業男はもちろん
「無理です。嫌です。」って断ってた。
そりゃそうだ。

とりあえず、問題が起こらないことを祈りつつ、
その日は帰った。

次の日からさっそく
アントンのクリステルいじめは始まった。

アントンのいじめ方は、内側からズンズンくる。
人の心をボロボロにして喜ぶタイプのいじめ方だった。
何かある毎に、「高卒のくせに」とか
「貧乏人は金稼ぐの必死やな」とか。
仕事と全く関係ない事でズンズンくる。

こないだまで恋の相談してたくせに、
記憶障害なのかと思った。

周りが注意しても、聞く耳持たない。
あいかわらずヘンテコな『出来る女』で
「部下に注意して何が悪い!」とキレる。

クリステルも人間なので、
100回に1回は計算ミスしたりする。
そういう時のアントンは
「高卒、足し算教えたろか?」とか口出ししてくる。

そんな執拗なイジメが続いて、
クリステルも皆も限界だった。

そんなある日、
ベテランさんが社長のお供で出掛ける事になった。

普段ベテランさんが金庫の管理やお金を合わせてたけど、
帰りが遅くなるので社長もベテランさんも、
その日はクリステルに任せてた。

社長はともかく、ベテランさんには居てほしかった。
何か不安でしょうがなかった。

会社の金庫は入れるものが少ないのにデカイ。
私が入れそうなくらいの大きさ。
銀行印とかも、その金庫に入れてたんだけど、
金庫を開けると銀行印が無い。

焦って探すクリステル。
皆も一緒に探した。
アントンだけは知らん顔してる。

金庫を隅々まで探しても見つからなかった。
証拠はないけど、
私も友近さんも犯人はアントンだと思った。

アントンは
「だから貧乏人に金庫とか任せるから」
とか言ってた。

ちょっと泣きそうになってるクリステルを見て、
友近さんが強行突破に出た。
アントンの机にいき、
横の引き出しを開けようとした。

もちろん抵抗するアントン。

必死の2人を見て、
どうしていいか皆分からなかった。
もう会社の事務所じゃなかった。修羅場だった。

その時、社長とベテランさんが帰ってきた。

社長は「何や?どうしたんや?」って感じだったけど
ベテランさんは何となく分かったみたいだった。

アントンと友近さんと所へ行って、理由を聞いてた。
そしてまず私に
「あんたの机の中、探していいか?」
って聞いてきた。もちろんOKした。

ベテランさんは一人一人に承諾を得ながら、
社長の机まで探して廻った。
最後にアントンの所にいって、
「探していいな?」って言った。

ベテランさんの顔には、何の表情もなかった。

アントンは無言で椅子から立ち上がった。
一つ一つ引き出しを開けていくベテランさん。
途中で動きが止まった。手には銀行印があった。
無表情のまま金庫へ直した。
そしてアントンに「どういう事?」って聞いた。

あんな怖いベテランさんを始めて見た。

ちょっと焦ってたけど、さすがはアントン。
「私じゃないし。クリステルが入れたんやろ?」
ってクリステルを睨んでた。

コイツ本当に凄いと思った。

事務所の空気は重くて真っ黒で、耐えられなかった。

アントンが来るまでは、
とっても楽しくていい会社だったのに。
悲しくて悔しくてちょっと泣いた。

そしたら、クリステルが
「私、辞めます」って言い出した。

社長はずっと黙ってた。

ベテランさんが
「社長、ここまできたら今後何が起きてもおかしくない。
誰が必要で誰が不必要な人材なのは
分かってるはずですよね?」

って言っても社長はずっと黙ってた。

重い沈黙が続いて、終業時間になった。
やっと社長が口を開いたけど、
ビックリする内容だった。

「ベテランが言うことも分かる。
でもアントンさんは俺が世話になった人に
頼まれたから辞めさせるわけにはいかん」

その言葉を聞いたとたん、アントンは普通に
「おつかれさん」って帰っていった。

それからちょっとして、
ベテランさんと設計さん2人が辞表を提出してた。
クリステルも辞めていった。

その後もどんどん辞めていって、
新しい人が大半になりアントンがますます調子に乗った頃、
私と友近さんも辞めた。

結局、ベテランさんは得意先だった所へ就職した。
クリステルは専業主婦になった。
友近さんも別の会社に就職した。
私は派遣登録をし、ボチボチ働いた

今でもクリステルとベテランさんとは年
賀状のやりとりはしている。
友近さんとは、お互い忙しくなって
だんだん連絡を取らなくなった。

私が今年35歳になり、なんかあの頃を思い出した。
ベテランさんとクリステルと同じ
35歳鬼婚小梨生活してるけど、
あの2人みたいに、素晴らしい人にはなれなかった。

仕事もそれなりに頑張って、
常に笑顔でいるように心がけてるけど、
やっぱりあの2人には適わないと思う。

その後、あの会社は潰れました。
ベテランさん情報です。

アントンはどうしてるのかわからないけど、
3人からプロポーズされ続けてるんだろう。

おしまいです。

オチなくてごめんなさい。
でも、こんなとんでもない女が居たって事を
聞いて欲しかったんです。

でも、未だに社長がなんでアントンを
あんなに庇ったのか謎なんですよねぇ。

ベテランさんは、何か知ってるみたいだけど
教えてくれないんですよ。

アントンのその後はわかりませんが、暇なので
アントンの印象的だった事件を書いていきます。

思い出せる順に書いていきます。

【アントンと洋服】

アントンと2人で飲みに行った時、店に着く前に
「ちょっと服見ていい?」とか言い出した。
ちょっとでもアントンと一緒の時間を少なくしたかったけど
「ダメです」とも言えず、高そうな服屋さんに付いていった。

あきらかにサイズが合わない服を選んで、
店員さんに意味ないドヤ顔で、「試着」とだけ言った。

普段から行ってる店らしく、店員さんも超笑顔で
「あら、いつもありがとうございますぅ」とか言ってた。

でも、その人以外はアントンの入った試着室を見て
うんざりした顔してた。
こいつはどこでも嫌われてるんだと思った。

そしたら、超笑顔の店員さんが
アントンが選んだ服の色違いを持って試着室の外に立ってた。
サイズが一緒なんだから、色違いでも入るわけない。

アントンと知り合いになると、バカも移るのかと思った。

誰が見てもサイズが合うわけもなく、
試着しても無駄だろと思っていたら、
試着室からさっきの店員さんに、
「ちょっと!色違い持ってきて!黒いやつ!」
って言ってた。

結局、予想通り着れるわけもなく、
脱いだ商品を試着室にほったらかしのまま出てきて
「襟元のデザインが気に食わんわぁ」とか言ってた。

恥ずかしくて、早く店から出たかった。

それからまたちょっと服を見て、
「ふーん」とか言いながら出口へ向かい
「また来るわ。今日はこの子とご飯行くから」
と言って出てった。

私は何でか「お邪魔しました」とお辞儀して店を出た。
そして、やっと飲みに行きました。

【アントンとお弁当】

アントンも一緒にお弁当を食べてる時、
あいつはよく人のおかずを食べてた。

皆でちょくちょくおかずの交換とかしてたんだけど、
ベテランさんのから揚げは凄く美味しくて、
皆好きだった。
よく多めに作って持ってきてくれてた。

やっぱり貰うだけじゃ悪いから、
皆で交換みたいな感じだった。

でも、アントンは始めてお昼に参加した日、
から揚げを全部食べた。
「揚げ物って太る」とかいいながらも、
ベテランさんの分まで全部食べた。

私たちのおかずも、普通に食べてた。
でも、皆大人だったから何も言わなかった。

そしたらある日、
「いつも貰って悪いからこれ、皆で分けて」と
サンドイッチを取り出した。
しかもどこで買ってきたのか、
豪勢なカツサンドだった。

5切れ入ってたので、一人一つづつと思ってたら、
カツサンドの蓋に一切れだけ入れて、
残り4切れは自分で食ってた。

「こいつ・・・」って思った。

結局、大人たちは
「晴美、食べていいよ」と私にくれた。

悔しいけど、旨かった。

【 アントンと喫煙室】

会社の喫煙室には、でっかい机みたいのがあって、
そこに煙を吸う装置が付いてた。
説明下手で解りにくいかもしれないけど、
JTのコマーシャルとかに出てくるやつみたいなの。

その煙を吸うところが網目になってるんだけど、
その机自体は決して灰皿じゃない。
机の真ん中に煙を吸うところがあって、
ちゃんと台に普通の灰皿が置いてあった。

それなのに、アントンは
煙を吸う所でタバコを消してたらしい。
よくタバコの葉っぱが詰まって困ると、
ベテランさんが言ってた。

ベテランさんが「タバコは灰皿で消しましょう」
って張り紙してたけど、
その後もずっとアントンは灰皿を使わなかったらしい。
ベテランさんが
「ワザとかバカなのかわからん」って言ってた。

【 アントンと優先座席】

これは、私が直接見た話じゃなく、営業さんから聞いた話。

出勤時、アントンと営業さんは一緒の路線だったらしい。
最寄り駅も一緒。
営業さんはアントンが居ることは分かってたけど、
いつも気づかれないようにしてた。

朝、電車を待って並んでいると不機嫌なアントンが登場。
新聞で顔を隠して難を逃れたらしい。

電車が来て、ドアが開いた瞬間、
アントンは列の先頭の人より早く電車に乗った。
電車に乗っても、すぐドアの横側に行って
ちょっと邪魔になってたらしい。

そしたらお婆ちゃんが乗ってきて、
心優しい人が「どうぞ」って席を譲った。
でもお婆ちゃんは
「次で降りますから。ありがとう」って断った。
でも、譲った人もすぐには席には座れない。

それを見ていたアントンはすかさず座って、
寝ていたらしい。

【 アントンとアイス】

ベテランさんがピッチャーのビールを
アントンにぶちまけた日、
号泣して、大将にアイスを貰った。

次の日、どういう流れで
そういう話になったのかは覚えてないけど、
アントンに「大将にアイス貰って帰りました」って言った。

そしたら
「私も欲しかったぁ!
アイスあるんやったら、もっと早く出せよなぁ!」
って言ってた。

【 アントンと俳優】

アントンは有名歌手や有名俳優に
プロポーズされた事があるらしい。

お弁当食べてるとき、
「有名俳優って誰ですか?」って聞いてみた。
でも「それは彼のプライベートもあるからひみつ」
ってキモイ顔で言われた。

その後もアントンは
「聞きたい?でも秘密」とか1人で言ってた。
ほんとは、どうでもよかった。

キリッとした眉毛で野生的でかっこいい。
面白くて頭脳明晰。
誰それ?中途半端なヒントで全くわからない。

友近さんが小声で
「見た目のヒントからして『藤岡弘』やろうな』
って言ってた。
クリステルが「あぁ!」って納得してた。

この2人のやり取りが、本気か冗談かわからなかった。

【 アントンとホスト】

アントンの恋愛相談にのってた頃、
よく5人で一緒に帰ってた。

そしたら、安っぽいホストが
「お姉さん達、今から僕に付き合ってくれませんか?」
って声掛けてきた。

アントン以外は無視してたけど、
アントンは「え?」とか言ってホストとしゃべってた。
イライラしながらアントン無視して駅まで行くと、
アントンがドスドス走ってきた。

そして第一声。
「やばい・・・告白された」って言った。

こいつほんとバカだと思った。

【アントンと匂い】

そういえば、アントンは毎日じゃないけど、
1週間に2日は沼みたいな匂いがしてた。

一度、すごく臭くて気持ち悪くなって
早退したことがありました。

【アントンとdelete】

アントンは『delete』を「デレーテ」って言ってた。
お前が「デレーテ」されればいいのにと思った。

【アントンと針金ハンガー】

アントンは衣装持ち。さすが金持ち。

一度、あみあみのカーディガンみたいなのを着て来た。
バーンとアントン登場。
「おはよう!」って元気よく挨拶。

アントンが後ろを向いたら、
ちょうど背中の真ん中あたりに
針金ハンガーがひっかかってた。

何で気づかなかったのか。
あれで電車に乗ってきたのか。

椅子に座るときにやっと本人が気づいた。
でも「ちょっと!誰よ!ハンガー置いたの!」って怒ってた。

クリステルいじめの時だったので、
めっちゃクリステルを睨んでた。

【アントンとタバコ】

そういえば、アントンはタバコを吸う時の吸引力が凄かった。
で、煙を吐く勢いも凄かった。
ほんとに怪獣みたいだった。

ほかの人が同時にタバコ吸い始めても、
アントンはいつも優勝してた。

しかも吸う時に、フィルターが湿ってるのか
「チュー」って音がしてキモかった。

【アントンと名前】

これは書けなくて悔しいんですが、
アントンは10年前にはめずらしく
ちょっとしたキラキラネームでした。
漫画に出てきそうな名前でした。
すっごく可愛い&珍しい名前でした。

思いっきり名前負けしてました。

おっと、晩御飯の準備開始です。

ありがとうございました。

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